月経前症候群(PMS)とは

月経前症候群(PMS:Premenstrual
Syndrome)は、生理が始まる数日前から心や体にさまざまな不調があらわれ、日常生活に支障をきたす状態を指します。
症状は月経開始とともに軽快または消失するのが特徴で、症状の強さや現れ方には個人差があります。
多くの女性が経験する身近な不調であり、20〜40代の女性の約7〜8割が何らかのPMS症状を感じていると言われています。
しかし、その中でも「仕事や学校に行けない」「家族に当たってしまって自己嫌悪になる」など、生活への支障が強い場合は、医療的な支援が必要なレベルです。
さらに、精神症状が顕著で、うつや不安、怒りなどが強く現れる場合には、「月経前不快気分障害(PMDD)」と診断されることもあります。
月経前症候群(PMS)の症状
月経前症候群では、精神的な症状と身体的な症状の両方が現れることが多く、それらが月経のたびに繰り返されます。
以下のような症状が、生理の1週間ほど前から始まり、生理開始とともに軽くなる場合は、PMSの可能性があります。
このような症状がある場合、PMSが疑われます
精神的な症状
- 情緒不安定(突然泣きたくなる・怒りっぽくなる)
- 強いイライラや焦燥感
- 不安感や落ち込み、気分の波が激しい
- 集中力の低下、仕事や勉強が手につかない
- 対人関係でトラブルを起こしやすくなる
- 自分を責めてしまい、自己嫌悪に陥る
など
身体的な症状
- 頭痛、腹痛、腰痛、乳房の張り
- 疲労感、眠気または不眠
- 食欲の増加(特に甘いものや炭水化物)
- むくみや体重増加、便秘・下痢
- 吐き気やめまい、のぼせなど
など
これらの症状が生理周期に合わせて一定のリズムで現れる場合、PMSやPMDDの可能性が高いと考えられます。
「なんとなく体調が悪い」「性格が不安定になった気がする」と感じている方も、実はホルモン変動による反応かもしれません。
PMSの原因と発症のしくみ
PMSの明確な原因はまだ解明されていませんが、女性ホルモンの変動(とくに黄体期のプロゲステロン増加とエストロゲン低下)が脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)に影響し、心や体にさまざまな反応を引き起こすと考えられています。
また、以下のような因子もPMSの出現や悪化に関与するとされます。
- ストレスや心理的要因
- 生活リズムの乱れ、睡眠不足
- 栄養の偏り、カフェイン・アルコールの過剰摂取
- 性格傾向(まじめ、完璧主義、自責的)
など
PMSは「気の持ちよう」や「我慢すべきもの」ではなく、心と身体の両面から捉えるべき医学的な状態です。
放置せず、適切なサポートを受けることが大切です。
PMS・PMDDの治療
当院では、患者さまの症状やライフスタイルに合わせて、「薬物療法」「心理療法」「生活改善支援」などを組み合わせたオーダーメイドの治療を行っています。
薬物療法
低用量ピル(経口避妊薬)
排卵を抑え、ホルモンの波を安定させることで、精神・身体両面の症状を軽減します。
低用量ピルは一時的に排卵を止めるもので、服用を中止すれば排卵はすぐに回復します。副作用も少ないとされ、その後の妊娠や出産にも影響を及ぼしません。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
PMDDや重度のPMSで、精神症状が強い方には抗うつ薬(SSRI)が効果的です。
月経前のみ短期間使用する方法もあり、副作用にも配慮しながら調整します。
そのほか(抗不安薬・睡眠薬・利尿薬・鎮痛薬・漢方薬など)
一時的な不安、不眠、さらに身体的な症状として胃腸症状、浮腫、乳房緊満感(乳房の腫れ、硬化、痛み)などがある場合には、それぞれ症状に応じて補助的に使用します。
身体の体質や副作用への懸念がある方には、漢方薬も適応されます。
月経前症候群(PMS)の治療で使われる漢方薬としては、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、加味逍遙散(かみしょうようさん)などがあります。
精神療法・カウンセリング
PMS・PMDDの背景には、ストレス対処のクセや自動思考(「ちゃんとしなきゃ」「迷惑をかけてはいけない」など)が関係していることもあります。
認知行動療法を通じて、自分の感情や反応のパターンを見直し、症状への対処力を高めます。
また、自分の気持ちを整理する場として、心理カウンセリングも有効です。
生活習慣の改善・セルフケア支援
PMSの治療では生活習慣の改善も大切です。
十分な睡眠を取り、栄養バランスの良い食事を心がけるようにします。
とくにビタミンB群やカルシウム、マグネシウム、亜鉛を積極的に摂ることで症状が緩和されるといわれています。
また、カフェイン、アルコール、砂糖などの摂取を制限することも、PMSの治療では重要になります。
さらにPMSでは症状軽減のために、気分転換やリラックス、ストレスを少なくしていくことが有効です。
軽い運動の習慣化や、自分のリズムを知り、自分にあったセルフケアを行っていくことは、症状の改善につながりますのでおすすめです。
そのために、まずPMS日誌(記録)というものを作成し、症状と周期を把握していくことが大切です。
呼吸法やマインドフルネスなどを取り入れてストレスマネジメントをし、症状が重い場合は、休みを取ることも治療の選択肢のひとつとなります
月経前症候群(PMS)は、心療内科・精神科で治療を行えます
PMSやPMDDは、ホルモンや脳内の変化による医学的な状態であり、専門的な治療によって大きく改善することが可能です。
「毎月の生理前が本当につらい」
「人と会うのが苦痛になる」「自分をコントロールできない」
そんな思いを抱えている方は、一度ご相談ください。
当院では、こころと身体の両面からアプローチし、患者さまそれぞれに合わせた治療の選択で、症状の軽減と、より快適な日常生活の実現を目指しています。
ひとりで抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。