不眠症とは

不眠症は睡眠障害の一つで、「眠ろうとしても眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」など、睡眠に関するさまざまな問題によって、日中の生活に支障が出ている状態を指します。
日本では、成人の30%以上の人が何らかの不眠症状を有しているといわれています。
不眠症は、単に「寝つきが悪い」だけの問題ではなく、睡眠の質や量の低下により、心や身体に様々な不調を引き起こすことがあります。
放置すると、うつ病や不安障害などの精神疾患の引き金になることもあり、逆に精神的ストレスが不眠を悪化させるという悪循環に陥ることもあります。
不眠症の症状
不眠症の症状は、以下の4つのタイプに分類されます。複数が重なっている方も多くいらっしゃいます。以下のような症状がある場合、不眠症の可能性があります
入眠困難(寝つきが悪い)
- ベッドに入ってもなかなか眠れず、30分〜1時間以上かかる
- 「早く寝なきゃ」と焦るほど眠れない
- 日中の疲れがとれない、集中できない
など
中途覚醒(途中で目が覚める)
- 夜中に何度も目が覚める
- 一度目覚めると再び寝付くのに時間がかかる
- 睡眠が浅く、夢ばかり見ているような感覚
など
早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまう)
- 起きる予定より何時間も早く目が覚める
- 再び眠れず、眠気や疲れが残る
- 高齢者やうつ傾向のある方に多い
など
熟眠障害(眠った感じがしない)
- 十分に眠ったはずなのに、熟睡感がない
- 朝起きたときからすでに疲れている
- 睡眠の質が悪く、日中に強い眠気やだるさがある
など
これらの不眠が、週に3回以上、1か月以上続くようであれば「慢性不眠症」の可能性があります。
さらに、日中の倦怠感や集中力低下、気分の落ち込み、不安感、イライラなどの二次的症状がみられることもあり、精神的なサインの一つとしても見逃せません。
不眠症の診断に際しては、睡眠時間のみではなく、不眠症状によって、日常生活や社会生活に悪影響を及ぼしているかどうかをみていくことも重要になります。
睡眠障害の原因
不眠にはさまざまな原因があります。
以下のようなものが単独あるいは複合的に影響していることが少なくありません。
心理的ストレス
人間関係の悩み、仕事のプレッシャー、家庭内の問題、親しい人との死別など、強いストレスを抱えると交感神経が高ぶり、眠りに入りづらくなります。
ストレスが続くことで慢性的な不眠に移行しやすくなります。
精神疾患との関連
うつ病、不安障害、適応障害、双極性障害など、精神的な不調の多くに睡眠障害が伴います。
不眠は「症状の一部」であることも多く、根本的な治療には原因となる疾患への対応が必要です。
身体的疾患や薬の影響
痛み、かゆみ、頻尿、咳などの身体的症状が眠りを妨げることがあります。
また、一部の薬剤(降圧薬、ステロイド、抗うつ薬など)には不眠を引き起こす副作用がある場合もあります。
生活習慣や環境
現代では様々な社会の変化により、朝起きて夜就寝するという規則的な生活に様々な影響が及ぼされています。
それによる体内時計の乱れも不眠症には大きく関係します。
寝る前のスマートフォンやパソコンの使用、夜遅い食事、シフト勤務などの生活リズムの乱れは、睡眠の質を下げる要因になります。
また、カフェインやアルコールの摂取や、騒音・光・室温など、睡眠環境の問題も影響します。
不眠症の治療
不眠症の治療に当たっては、まず、患者さまの不眠のタイプと原因を丁寧に見極めていくことが大切です。
その際、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、ほかの睡眠障害の可能性に関しても、注意深く見ていく必要があります。
不眠症と診断されましたら、当院では「薬に頼りすぎない」「再発しにくい」ことを目指し、主に以下のアプローチを組み合わせて治療を行っていきます。
睡眠衛生指導・生活リズムの調整
日中の活動量、光の取り入れ方、室温調整、就寝前の過ごし方、寝具の選び方、食事やカフェインの摂り方など、睡眠に関わる生活習慣全般を見直します。
ちょっとした工夫が、睡眠の質を大きく改善させることもあります。
薬物療法
不眠症の治療では、必要に応じて薬物療法を行います。
当院では、薬の種類・作用時間・副作用などを丁寧に説明し、患者さまと相談しながら最適な治療法を選択していきます。
使用される薬剤としては、以下のようなものがあります。
症状や背景によって使う薬は異なりますので、医師と相談しながら安全に使用することが大切です。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
脳の活動を鎮める作用があり、即効性があります。
寝つきの悪さや途中覚醒に有効ですが、依存やふらつき、記憶障害などの副作用が出ることがあるため、長期使用は慎重に行います。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系と似た効果を持ちながら、副作用が比較的少ない薬です。
寝つきを改善する目的でよく使われます。
メラトニン受容体作動薬
体内時計に働きかけて自然な眠気を促します。
習慣性が少なく、比較的に安全性が高いとされ、高齢の方や長期的に使用が必要な方の選択肢となる薬です。
オレキシン受容体拮抗薬
脳の覚醒を促進するオレキシンの受容体を阻害し、「目を覚ます」神経を抑える新しいタイプの薬です。
自然な入眠・睡眠維持に効果があり、反跳性不眠(睡眠薬を中断・減薬したことで不眠が悪化する現象)が少ないのが特徴です。