強迫性障害とは

強迫性障害(OCD:Obsessive-Compulsive
Disorder)は、「頭から離れない考え(強迫観念)」と、「それを打ち消すための繰り返しの行動(強迫行為)」を特徴とする精神疾患です。
本人はその考えや行動が不合理であることを自覚していながらも、不安を抑えるためにやめられず、日常生活に支障をきたしてしまう状態です。
たとえば、「手にウイルスがついているのでは」と感じて何度も手を洗い続けたり、「火を消し忘れたかもしれない」と何度も確認行動を繰り返したりするような例があります。
これらの行動は一時的に不安を和らげますが、すぐに再び不安が湧き上がり、悪循環に陥ってしまいます。
強迫性障害は、日本では100人に2〜3人が生涯に一度は経験するとされており、決して珍しい病気ではありません。
発症は10代後半から20代に多く、性別を問わずみられます。
発症から適切な治療までに時間がかかるケースが多く、「性格の問題」や「癖」として見過ごされてしまうこともあります。
強迫性障害の症状
強迫性障害の症状は、「強迫観念」と「強迫行為」があります。
強迫観念とは、自分の意思とは関係なく繰り返し頭に浮かんでしまう思考やイメージを指し、強迫行為は、不安を打ち消すために繰り返される行動のことです。
主な例としては、以下のようなものがあります。
強迫観念の例
- 手や物が不潔だという強い不安(汚染恐怖)
- 「鍵を閉め忘れたかもしれない」「火を消していないかも」といった過剰な確認へのこだわり
- 誰かを傷つけてしまうのではという恐怖や加害妄想(加害恐怖)
- 偶数でないと気が済まないなど縁起や数字への過剰なこだわり
- 思考の中に「不適切な言葉」や「暴力的なイメージ」が繰り返し浮かぶ
など
強迫行為の例
- 手洗い、入浴、衣類の洗濯などの過剰な清潔行動
- 戸締まり、火元、電気のスイッチなどの反復確認(確認行為)
- 決まった順番でドアを開け閉めするなど一定の順序や回数にこだわる行動(儀式行為)
- 物の配置、対称性などへのこだわり
など
これらの症状は、1時間以上にわたって毎日繰り返されることが多く、学校や仕事に集中できない、人間関係が悪化するなど、生活の質を大きく損ないます。
本人も「ばかばかしい」「意味がない」と理解していても、不安の強さからやめることができず、苦しむことが特徴です。
強迫性障害の原因
強迫性障害の原因は明確にはわかっていませんが、神経伝達物質(主にセロトニン)の異常が背景にあると考えられています。
まじめで几帳面、完璧主義で責任感の強い性格の人に多くみられ、家庭や学校、職場での過剰な期待、抑圧的な環境なども影響することがあります。
さらに対人関係や仕事上のストレス、生活の変化、妊娠や出産などのライフイベントをきっかけに発症・悪化する場合も少なくありません。
「性格の弱さ」や「意志の問題」ではなく、治療が必要な病気であることを知っていただくことが大切です。
強迫性障害の治療
強迫性障害は、正しく治療を行えば改善が期待できる病気です。
治療の柱は、「認知行動療法」と「薬物療法」です。
状態に応じて両方を組み合わせ、段階的に不安や行動のコントロールを取り戻していきます。
認知行動療法
最も効果的とされている治療法です。特に「曝露反応妨害法」という技法を用いて、あえて不安を引き起こす状況に直面し(曝露)、それに対する反応行動(強迫行為)を我慢する練習を少しずつ積み重ねていきます。
はじめは強い不安を感じますが、繰り返すことで「何もしなくても大丈夫だった」と実感できるようになり、不安や強迫行為が次第に減っていきます。
薬物療法
脳内の神経伝達物質のバランスを整えるため、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられます。
不安や強迫症状を和らげ、精神療法に取り組みやすくするためにも有効です。
効果が出るまでには数週間以上かかることがありますが、長期的には症状の安定に役立ちます。
このほか抗不安薬が用いられることもあります。
薬物療法にあたっては、副作用や薬の不安がある方にも、丁寧に説明を行いながら、無理のない治療計画を立てていきます。
環境調整・家族の理解
家族が強迫行為を手伝ってしまうことで、かえって症状が固定化されることがあります。そのため、周囲の適切な理解と対応も治療において非常に重要です。
当院では、ご家族への説明や支援も行っています。