適応障害とは

適応障害とは、ある出来事や環境の変化にうまく対応できず、強いストレス反応が生じ、こころや体にさまざまな不調が現れる状態です。
特定の「きっかけ」が明確にあるという点が他の疾患と異なる特徴であり、うつ病や不安障害のような他の精神疾患の前段階となることもあります。
たとえば、仕事の異動や退職、人間関係のトラブル、結婚・離婚、進学・就職、病気と診断されたなど、日常的に起こりうる出来事であっても、その人にとって大きな心理的負担となる場合に適応障害を発症することがあります。
日本では明確な発症率は報告されていませんが、とくに働く世代や学生、家庭の変化を経験した方など、幅広い層にみられる病気です。
「つらいけれど頑張らないといけない」と思い込み、我慢を続けてしまう方が多いため、早期に気づき、適切な対応をとることがとても重要です。
適応障害の症状
このような症状がみられる場合、適応障害が疑われます
- 強い不安感や焦燥感が続く
- 気分が沈み、やる気が出ない
- すぐに涙が出る、情緒が不安定になる
- 怒りっぽくなり、人に対して攻撃的になる
- 集中力が落ちて、仕事や学業に支障をきたす
- 不眠、食欲不振、動悸、胃痛などの身体症状が現れる
- 過度な飲酒や喫煙、衝動的な行動に走る
- 「逃げたい」「消えてしまいたい」と感じる
など
適応障害は、ICD-10(世界保健機関の診断ガイドライン)では、原因となるストレスが生じてから1か月以内、DSM5(米国精神医学会)では3か月以内に発症し、ストレスの原因が取り除かれてから6か月以内に症状が改善するとされています。
ただし、ストレスが長く続く場合には長期間続くこともあり、症状が長引く場合や、日常生活に深刻な支障が出ている場合には、適応障害から他の精神疾患へ進行する可能性もあります。
診断にあたっては、ストレス因子と症状の関係性を丁寧に確認し、他の疾患(脳腫瘍やてんかん、甲状腺疾患など脳の器質的疾患や身体疾患を含む)との鑑別も行います。
当院では、患者さまの背景や心理的な状況をしっかりとお伺いし、慎重に判断いたします。
適応障害の原因
適応障害の原因は、外部からのストレスです。
たとえば、以下のような出来事がきっかけとなることがあります
- 職場での異動や退職、パワハラや過重労働
- 学校でのいじめ、成績不振、進路の不安
- 家庭での夫婦関係の変化、育児の負担、介護の疲労
- 病気と診断されたことや体調不良による将来への不安
- 転居や経済的な問題、新たなライフイベント(結婚・出産など)
など
ただし、同じ出来事でも誰もが適応障害になるわけではありません。
その人の性格傾向(まじめ・責任感が強い・自分を責めやすいなど)や、過去の経験、サポート体制の有無なども大きく関与します。
「自分が弱いせいだ」と感じてしまう方も少なくありませんが、これは心の病気であり、本人のせいではありません。
ストレスにうまく適応できない状態が続くと、こころと体に深刻な影響を及ぼすため、早めの受診と適切なケアが必要です。
適応障害の治療
適応障害の治療の基本は、原因となるストレス状態をできる限り軽減することです。
さらにストレスへの対応力を高めたり、症状を緩和したりし、心身のバランスを整えていくことを目指します。
当院では、「環境調整」「薬物療法」を軸に、患者さまそれぞれに合った治療方針を立てていきます。
環境調整・休養
適応障害の回復には、ストレスの原因から一時的に距離をとることが重要です。
必要に応じて休職や休学、勤務形態の変更などを提案し、心身を休める環境を整える支援を行います。
診断書の作成や意見の記入などについて、患者さまとお話をしつつ、行う場合もあります。
また、家族や職場との連携も含め、生活全体の調整をサポートします。
薬物療法
不眠や不安、過度の緊張、抑うつ症状が強い場合は、必要に応じて薬を用いることがあります。
抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などを使用し、症状を和らげることで生活の安定を図ります。
薬はあくまでも補助的な役割であり、状態が改善すれば中止することも可能です。
副作用などについては医師が丁寧にご説明します。
適応障害は、早めに対応すれば比較的回復しやすい疾患です。
しかし、放置してしまうと、うつ病や不安障害へと移行してしまうこともあります。
もし「最近、こころと体の調子がいつもと違う」「ある出来事から立ち直れない」と感じているなら、それは適応障害のサインかもしれません。
当院では、患者さま一人ひとりのお気持ちに寄り添い、安心してご相談いただける診療を心がけています。
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