躁うつ病とは

躁うつ病

躁うつ病とは、「うつ状態」と「躁状態(または軽躁状態)」を繰り返す、気分の波が大きい精神疾患です。
「双極性障害」、「双極症」と呼ばれることもあります。

うつ状態では気分の落ち込みや意欲の低下が現れ、躁状態では逆に気分が高揚し、活動的になりすぎたり、衝動的な行動が目立ったりするようになります。
こうした極端な気分の変動が、本人の意思とは無関係に生じ、日常生活や社会生活に支障をきたすのが特徴です。

発症は思春期後半から30代までに多く、患者数は日本国内で人口の0.4〜0.7%、50万人~80万人程度と推計されています。
うつ病と似た症状がみられることから、当初は「うつ病」と診断され、治療がうまくいかないまま数年経過するケースも珍しくありません。

躁うつ病の症状

躁うつ病の症状は、大きく「うつ状態」と「躁(または軽躁)状態」の2つに分かれます。
それぞれが単独でみられる時期が数週間~数か月続き、交互に現れるか、いずれかの状態が優位になるパターンもあります。

このような症状がみられる場合、双極性障害が疑われます

うつ状態
  • 気分が落ち込む、悲観的になる
  • 何をしても楽しく感じられない
  • 意欲がわかず、仕事・家事が手につかない
  • 疲労感が強く、朝起きるのがつらい
  • 集中力の低下や決断困難
  • 食欲や睡眠の異常(過食・過眠またはその逆)
  • 自分を責めたり、「生きていても仕方がない」と感じる

など

これらの症状は、うつ病と非常に似ていますが、双極性障害ではこれらに加えて、躁状態のエピソードが過去にあったかどうかが診断の鍵となります。

躁状態(または軽躁状態)
  • 気分が異常に高揚する、興奮する
  • 睡眠が少なくても元気に活動できる
  • 自信過剰になり、普段言わないことを言ったり、大きな計画を立てる
  • 話し続けて止まらない、他人の話をさえぎって話す
  • 衝動的な買い物や浪費、無謀な行動をとる
  • 性的な逸脱行動や対人トラブルを起こしやすくなる

など

躁状態では、本人に病識(自覚)がなく、周囲の指摘で初めて気づかれることが多くあります。
「元気で調子がいい時期」と誤解されやすいため、見逃されやすい状態です。

双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障について

双極性障害は症状によりⅠ型とⅡ型に分けられます。
双極Ⅰ型障害は、少なくとも一度は激しい躁状態を経験することが特徴です。
場合によっては幻覚や妄想などの精神病症状を伴うこともあります。
うつ状態を併発することもありますが、診断には必須ではありません。
一方、双極Ⅱ型障害は、明確な躁状態までは至らないものの、軽躁状態と呼ばれる比較的軽い気分の高揚を経験し、それに加えて少なくとも一度のうつ病エピソードが必要となります。

軽躁状態では、元気がありすぎる、少し多弁になる、少ない睡眠でも活動できるといった変化が見られますが、社会生活に支障をきたすほどではないことが多く、本人や周囲が気づきにくいこともあります。
双極Ⅱ型ではむしろうつ状態の方が目立ち、うつ病として長く治療されているケースも少なくありません。

双極性障害の原因

躁うつ病(双極性障害)の原因は一つではなく、脳の働きの偏り、遺伝的な体質、そして心理的・環境的なストレスなどが複雑に関係して発症すると考えられています。

脳内では感情や意欲に関わる神経伝達物質、特にドパミンやセロトニンの調整がうまくいかなくなり、気分が極端に高まったり沈んだりする状態が生じます。
また、家族に双極性障害の方がいる場合、発症のリスクが高まることが知られており、遺伝的な要因も関与しています。

ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、環境的な要因、たとえば離婚、失業、死別など強いストレス、生活リズムの乱れ、睡眠不足などが引き金となることもあります。
これらの要素が重なったとき、脳のバランスが崩れ、躁うつ病として症状が現れてくると考えられています。
またアルコールや薬物の影響などが、発症や再発の引き金になることがあります。

双極性障害は、性格や努力の問題ではありません。脳の働きの一部に変調が起きている医学的な疾患であり、適切な治療と理解が必要です。

双極性障害の治療

双極性障害は慢性的な経過をたどることが多いため、再発予防を含めた長期的な視点での治療が必要です。
当院では「薬物療法」を中心に、「心理社会的支援」や「生活習慣の調整」などを組み合わせて、患者さまに寄り添った治療を行います。

薬物療法

双極性障害では、気分の波を安定させる「気分安定薬」が治療の柱となります。
代表的な薬にはリチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどがあり、再発を予防する効果が期待されます。

躁状態が強い場合には抗精神病薬を、うつ状態が強い場合には慎重に抗うつ薬を併用することもあります。
ただし、抗うつ薬単独の使用は躁転(うつから躁へ急激に移行)を引き起こすことがあるため、診断と治療は双極性障害に精通した専門医によって行われることが重要です。

近年では、脳内物質のドパミンの働きを弱め、感情の波を抑える、統合失調症の治療薬(アリピプラゾール、オランザピン、ルラシドンなど)を使うケースも増えてきています。
薬の効果や副作用は個人差があるため、状態を見ながら調整していきます。

心理教育・認知行動療法

患者さま本人が、病気についての正しい理解を深めて、病気であることを受け入れる「心理教育」は、治療継続のためにとても重要です。
気分の変動に気づきやすくすることで、早めの対処や受診、安定のための生活習慣の実践や、再発の予防につながります。

また、うつ状態や人間関係の困難に対しては、認知行動療法などを取り入れ、自分の考え方のくせに気づくことで、物事をバランスよくとらえられるようにしたり、否定的になりがちな考えを見つめ直したりすることにより、気分の安定を目指します。

生活習慣の調整・支援

双極性障害の方にとって、生活リズムの安定が治療の大きなポイントとなります。
とくに「睡眠の質と量の確保」は再発予防に直結します。
夜更かし、過労、アルコール摂取などは再発のリスクを高めるため、規則正しい生活が求められます。

必要に応じて、復職支援、家族支援、福祉サービスとの連携も行いながら、無理のない社会参加をサポートいたします。

回復のために、まずは正確な診断と安心できる関係を

双極性障害は、適切な診断と治療を受ければ、再発を抑えながら安定した生活を送ることが目指せる病気です。
しかし、うつ症状だけが目立つ初期には「うつ病」と誤診されることもあり、薬が合わずに悪化することもあります。

「うつ病の治療をしているがなかなか改善しない」「気分の波が激しい」「調子が良すぎて無謀な行動をしてしまう」…そういった経験がある方は、双極性障害の可能性があるかもしれません。

当院では、日本精神神経学会の専門医が丁寧にお話を伺い、正確な診断と長期的なサポートを行っております。
まずは不安な気持ちをお聞かせください。
ご本人も、ご家族も、安心してご相談いただける環境を整えております。